2019年8月6日火曜日

突然のカシミール州自治権剥奪と、ラダックの連邦政府直轄地獲得のニュース。


8月5日、インド全土を駆け巡ったカシミール州自治権剥奪と、連邦政府直轄地化のニュース。実はラダックにとっては、30年来切望していた連邦政府直轄地(Union Teritory 以下、UT)を獲得した日だというのは、多くの人は知らないだろう。
私も、政治は良く分からないが、昨夜はラダックの安全性に関する問い合わせがいくつも入ったりしているから、分かる範囲で書いておきたい。

ラダックのUT獲得は、喜ばしい反面、実質的には自治権剥奪に対する不安も残る。モディ首相の主たる目的はジャンムカシミール州のarticle370という憲法を無くすこと。これは、今までは州の住人以外の外部者がジャンムカシミール州で土地を買うことは出来なかったが、この措置の撤廃で、資本のある外部者が土地を買って事業をはじめたり、住んだりができるようになったということ。
州を解体させ、ジャンム地方とカシミール地方が一緒に連邦政府直轄地となり、議会も持たせた。ラダック地方は、ラダックのみで連邦政府直轄地に。しかし議会は持たせなかった。この辺りも、今までの自治体制の有り様と、どうなっていくのか、よく分からない。

ラダックがUTを求めていた理由は簡単だ。カシミール州には、仏教徒が多数のラダック地方と、ヒンドゥー教多数のジャンム地方と、イスラム教多数のカシミール地方があり、それぞれ、利害関係や求めるものが違うのに、無理無理ひとつの州として束ねられていたような節があった。だから、例えばジャンムカシミール州の予算は、スリナガルからラダックにまともに分配されないことが普通だったから、カシミールから離れ連邦政府直轄地になれば、ラダックにはちゃんと自分たちのために使える予算が分配されることなど、主たる狙いはこのような当たり前の権利獲得を目的とするものだっただろう。政府の主要な役職も、スリナガルにとられっぱなしではなく、自分たちの中から選出したり、席を設けられさえすれば、雇用も創出されるわけだし。

しかし、ラダック内でもカルギル支区はUTを望んでいなかったなどの背景があり、なかなか獲得に至らなかった。UTになれば、明らかにレー支区がその中心になるから、カルギルは二番手のようになってしまうからだという。いかにも、ラダック内でも異なる宗教や地域による、割れのようなものがある。今回、カルギルはどう思っているのだろう。

そして何より、今回のモディ首相のこのやり方にも言及したい。先の総選挙ですでにその可能性が語られていた article370という憲法の撤廃を、モディ首相は見事に独断で強行した。この用意周到さといったら半端ではない。
8月5日の大統領令として、自治権剥奪とUT化を宣言するまでの流れはこのようなものだった。

とある情報によると、7月末だったか、パキスタン支配地で、インド軍が攻撃をして民間人を含む死者や怪我人が出た模様…という事実関係が確認出来てないような情報が入った。またか、ちょっと大丈夫か?という状態に。

その数日後、にわかに、スリナガル郊外にあるアマルナートというヒンドゥー教聖地に来ていたたくさんのヒンドゥー教巡礼者を、なぜだか危険だから?として、避難勧告をだした。
それを受けて、日本大使館からも、カシミール地方には行かないように、在留している人はその地を離れるようとの連絡が入った。

何がそんなに問題があるのか、といった感じの中、ラダックの安全性が心配されはじめていたため、ラダックの国会議員ジャムヤン ツェリン ナムギャルは、ラダックは安全だから、むしろ、アマルナートからカルギル、ラダック経由で帰ったらいいと、メッセージを発信。
8月4日になってか、カシミール地方全体かスリナガル周辺か、外出禁止となるために、ちょっとしたパニック状態で、食料調達やガソリン補給に奔走するカシミーリーの情報が入ってきた。
更には、ジャンムカシミール州の元州知事の女性が自宅軟禁になっているとの情報。何をしたというのか、そんな状態。
そうこしているうちに、夜遅くからラダックの国営通信BSNLのネットが切れた。後から思えば切られたなと。
4日はそのようにして一晩明け、外出禁止のスリナガル周辺(範囲は知らない)と、自体軟禁の有力者、何やら全てを黙らせた状態。ラダックは至っていつもの日常で何も変わらなかった。ただ、やけに空軍がファイターのドリルを繰り返している音が上空から聞こえた。まあ、特別ではないか、たまにやってるしな、くらいに思った。

その5日の正午くらいから、ニュースが騒がしくなった。そのうち大統領令が発令された。ジャンムカシミール州の自治権剥奪とUT化。ニュース媒体が大きくても、ラダックのUT獲得のニュースを信じられなかった。どうせインドのフェイクニュースだ、くらいに。
だけど、各局が同じ報道をはじめた。本当にやったんだ、ということが分かり、お盆前の旅行アレンジが忙しいのに、ニュースにかじりつくことに。かろうじて、細々民間のairtel社の通信が動いていて、情報収集。確かにUT獲得に。

夜になったら、自体軟禁だった元州知事は政府の宿舎で逮捕されている。昔から有力者だったカシミール州の政治家一家の息子も逮捕された。何をしたというのか。全く分からない。
結局のところ、暴動にならないよう、カシミールは外出禁止で封じ込め、有力者を抑え込み、相当数の治安部隊を投入した上で、ネットを遮断してまで、反対結集の抑え込みに成功しながら、ジャンムカシミール州の自治権剥奪とUT化を強行したのだと言える。

これは、モディ首相が独裁政権のように、全くデモクラシーもなく強行した政策だというのはは一目瞭然だ。カシミールを自分のコントロール化で抑え込みたいがために、ラダックは棚からぼた餅的に?UT獲得。いや、むしろ口封じじゃないのか。切望したものが手に入り結果オーライかもしれないが…。

今後、大統領令の永続化のため、憲法改定案を議会に出して、そこでラダックの地位も決まるらしい。
ラダック内でも賛否両論あり、どよめいている。外部資本の参入は新たな雇用を創出するからメリットだとか、私ちちの隣人が、ある日ビハーリーになってもいいのか?とか、議会を持てなきゃ意味ないだろう、モラルや治安は維持できるのか、悪くなっていくだろう…などなど、様々な意見が飛び交っている。
はっきり言って、これがよく出るのか悪く出るのかは、分からない。今後、しっかり見てやっていく必要がある。しいて言えば、この独裁的な改憲の強行が、遠く離れた日本で、いつかデジャヴのように繰り返されないでほしい、そう願うばかりだ。

ラダックは今日もいつもと変わらない日常です。政治的な動きにざわついてはいるけれど、あとは、獲得したUTの具体的な運用方法などに話は進んで行くだろうし、カシミールと違ってラダックには反発する要因はないため、治安が心配されることはないと思います。

旅行を計画されていた方は、ラダックに危険を感じる必要はないと思ういます。何か心配事があればすぐに発信します。
こんな長文を書いてるヒマがあったら、返信をしてくれと思われてる、我がクライアントの皆さん、スミマセン!今からやります!