『雪ヒョウを探して』
何度も何度も山に入り、雪ヒョウの足跡を探し、追跡した。
相手は生きている野生の雪ヒョウ。
そう簡単に姿を見せてはくれない。
何度となく無駄足を踏みながらも諦めず、
雪ヒョウを見たい一心で真冬の山を歩いた。
山の静けさと暗闇、狼の足跡に恐怖を覚えながら。
それでも、追跡すればするほど、だんだんと近づいて来ている気がした。
諦めなかった。
そして、ついに足跡の先に何か動くものを見つけた!
一瞬、太い蛇が這っているのかと思ったが、それはシッポだった。
その直後、視覚が全体像をつかみ始める。
そこにいたのは、まぎれもなく雪ヒョウだった!
雪に映えるその美しい姿…。
雪ヒョウを見つけた喜びで興奮していたが、
同時に野生動物たるものへの恐怖心も込み上げてきた。
両者が入り混じった妙な興奮が自分の中で起きている。
やっとファインダーを覗くが、シャッターをきる手が震えていた。
そのうち雪ヒョウもこちらの存在に気づいた。
警戒はしているようだが、逃げたりはしない。
様子を伺っている鋭い目。
危険はないと判断したように、再び崖を登りはじめる雪ヒョウ。
崖の一番天辺まで来ると、猫のように地べたに身体を横たわらせた。
太陽の温かさに包まれるように。
空の青と雪の白。この二つのコントラストに雪ヒョウが浮かんだ。
そして、またこちらの様子を伺うように見ている。
しばらく続いた雪ヒョウと自分の対話。
こっちはお前を襲おうなんて考えてもいない。
お前も俺の血を吸おうなんて考えていないはずだ。
歴史的にも雪ヒョウが人を襲った記録はないと言う。
お前の近くにいたい気持ちもあるが、踏み込んではいけない自然界への境界線も意識にある。
相対する感情が交差しながらも、シャッターをきる。
そのうち雪ヒョウは警戒もせず、居眠りをはじめた。
ふと我に返って下を見ると、遥か下方に自分のテントが見えた。
足跡を辿って随分上まで登ってきたのだった。
雪ヒョウは10分くらい寝ていただろうか。
こちらの動きを見て、いよいよ警戒したのかもしれない。
スクっと立ち上がり、こちらに背中を向けた。
雪ヒョウはゆっくりと歩き出し、崖の向こう側へと消えていった。
しばし雪ヒョウと共有した時間。
お互いを認めたような不思議な感覚が残っている。
もし雪ヒョウもそれを楽しんでいたとしたら、
最後に、あの太いしっぽで、”サヨナラ”と言ってくれたのかもしれない。
また会おう。
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Photography STANZIN WANGBO
FEB. 2015
※雪ヒョウの写真はサイズを縮小しています
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